「幽霊の見世物」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

人形佐七捕物帳169

娘の身の上があまりにも不幸すぎる

「幽霊の見世物」（横溝正史）
（「完本人形佐七捕物帳十」）
　春陽堂書店

深川の六間堀に
｢幽霊の見世物｣があるというので
出かけた佐七と辰･豆六。
そこはかつて贋金づくりで
死罪となった大店の寮だった。
荒れ果てた屋敷の離れに現れた
若い娘の幽霊。
だが、何者かが投げつけた白刃が
その胸に突き刺さる…。

横溝正史の人気時代物、
人形佐七捕物帳
第一六九話｢幽霊見世物｣です。
｢見世物｣ですから
本物の幽霊であるはずがなく、
正体は人間です。
もちろんただの興行ではなく、
そこに何かいわくが潜んでいるのです。
佐七はその謎をどう解き明かすか？

【捕物帳一六九｢幽霊見世物｣】
銭屋五郎兵衛
…贋金づくりで死罪となった両替商。
お露
…五郎兵衛の娘。労咳を患っていた。
　行方不明だったが、幽霊興行の最中、
　匕首を投げつけられ、死亡。
お蝶
…五郎兵衛の娘。お露の妹。
　五郎兵衛処刑の際、行方不明となる。
利助
…元銭屋手代。お露の許嫁だったが、
　お蝶とともに行方不明。
上総屋竹五郎
…｢幽霊見世物｣の興行主。
　テキ屋の親分。
五風庵十雨
…俳諧の師匠。
　お露を手込めにしたという噂。
山口屋喜兵衛
…両替商。｢幽霊見世物｣に現れる。
北六･岩八･長太
…お蝶を監禁していたならず者たち。
十吉
…お露の産み落とした子ども。
辰･豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。

本作品の味わいどころ①
｢幽霊殺人事件｣の謎
幽霊の正体は、
興行の場となった屋敷で
かつて療養していた娘･お露。
彼女は父･五郎兵衛処分の折、
行方知れずとなり、
どこぞへ身投げしたのだろうと
噂されていた娘なのです。
その娘が興行中に
匕首を投げつけられて死亡する、
いわば｢幽霊殺人事件｣なのです。
その匕首は
どこから投げつけられたのか？
下手人は誰なのか？
なぜ殺されなければならなかったのか？
その謎を、
佐七一家が解き明かしていくのです。

本作品の味わいどころ②
お露はなぜ幽霊興行を？
そもそも、お露はなぜ幽霊興行を
しなければならなかったのか？
読み進めていくと、
興行主･上総屋竹五郎は
悪人でもなさそうです。
脅されて出ていたわけではないのです。
しかも、お露死後は、
その産み落とした幼児｢くらげ坊主｣
(障害児と思われる)まで
見世物にされているのです。
それもまた
お露が望んでいたのですから、
そこには大きな秘密が
隠されているはずです。
その秘密を、
佐七一家が明らかにしていくのです。

本作品の味わいどころ③
贋金づくり事件の真相
そのお露の父親は
贋金づくりで死罪となった人物。
ところがお上のほうでも、
果たしてそれが
五郎兵衛の仕業だったのかどうか、
疑念を持っている(つまり冤罪の
可能性があると考えている)のです。
贋金づくりは本当に
五郎兵衛の罪なのか？
冤罪だとすれば真犯人は誰なのか？
五郎兵衛はなぜ罪を
一身に引き受けたのか？
それはお露とどう関わり合うのか？
お露、お蝶、利助が
姿をくらましたのはなぜか？
数々の疑問を、
佐七一家が見事に解決していくのです。

佐七一家が事件を解決するのですが、
佐七の推理の場面はありません。
ありましたが、外れていました。
真相は悪党がついつい口走り、
それを張り込んでいた佐七が
しっかり聞いたという、
ただそれだけです。
その内容があまりにも陰惨であり、
思わず身震いしてしまいます。

完本人形佐七捕物帳十

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今日のオススメ！

いつもは爽やかに
幕切れを迎えるのですが、
この第一六九話だけは
お露の身の上があまりにも不幸すぎて
心が重くなります。
横溝はなぜか、時代物になると
たがが外れたようにエロティックかつ
グロテスクな筋書きを
生み出すことがあります。
まあ、それも横溝の一面なのでしょう。
怖いもの見たさで
味見してみてください。

〔「完本人形佐七捕物帳十」〕
三人色若衆
福笑いの夜
幽霊の見世物
女祈禱師
神隠しばやり
冠婚葬祭
三河万歳
番太郎殺し
熊の見世物
ろくろ首の女
雷の宿
江戸名所図会
梅若水揚帳
浮世絵師
長編版番太郎殺し
長編版狒々と女

「幽霊の見世物」（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説選Ⅳ」）論創社

深川の六間堀に
｢幽霊の見世物｣があるというので
出かけた伝七と乾分･竹。
そこはかつて贋金づくりで
死罪となった大店の寮だった。
荒れ果てた屋敷の離れに現れた
若い娘の幽霊。
だが、何者かが投げつけた白刃が
その胸に突き刺さる…。

人形佐七捕物帳
第一六九話｢幽霊見世物｣は、
実は改稿された作品であり、
原形作品が存在します。
それが黒門町伝七捕物帳シリーズの
一作である本作品です。

〔主要登場人物〕
銭屋五郎兵衛
…贋金づくりで死罪となった両替商。
お露
…五郎兵衛の娘。労咳を患っていた。
　行方不明だったが、幽霊興行の最中、
　匕首を投げつけられ、死亡。
お蝶
…五郎兵衛の娘。お露の妹。
　五郎兵衛処刑の際、行方不明となる。
利助
…元銭屋手代。お露の許嫁だったが、
　お蝶とともに行方不明。
上総屋竹五郎
…｢幽霊見世物｣の興行主。
　テキ屋の親分。
五風庵十雨
…俳諧の師匠。
　お露を手込めにしたという噂。
山口屋喜兵衛
…両替商。｢幽霊見世物｣に現れる。
北六･岩八･長太
…お蝶を監禁していたならず者たち。
十吉
…お露の産み落とした子ども。
遠山左衛門尉
…江戸南町奉行。
　五郎兵衛の贋金づくりの一件の
　北町奉行所の判断に
　疑念を抱いている。
竹(獅子っ鼻の竹)…伝七の乾分。
伝七…黒門町の御用聞き。

佐七が伝七へ、
辰と豆六が竹へ置き換えられただけで、
他の登場人物は変化ありません。
伝七の語りの中に南町奉行の
遠山左衛門尉が現れるくらいです
(佐七へ改稿した際、
なぜ削除されたのか？)。
そしてほとんど筋書きは
変化していません。
黒門町伝七捕物帳は六篇編まれていて、
すべて佐七ものに改稿されています。
こちらもどうぞ。